「各国より集まりし選手諸君・・・ようこそBF(バトル・フィールド)世界大会へ・・・」アース神殿に飾られる数多の彫刻群が口を開いた・・・!?重厚な石造りのアース神殿は、まるで城のよう・・・普段なら入りもしない数々の部屋、そして数多の彫刻群今宵は新月。星明りと数々の松明の明かりだけでは、きっと所々に深い闇がある筈だ・・・さぁ、各国より選ばれし選手達よ・・・神の御前での試合、無様な姿は晒せないぞ。
マイロン・K・ディム選手(フーリュン代表) vs クリフ・アーシェント選手(特別出場枠)ゼフィリシア選手(ジグロード代表) vs ヤヌス選手(ヘルハンプール代表) レニーシア・フリークス選手(エジュー代表) vs リンス=ライオット選手(プリエスタ代表)ネンテ=シ・ヴィト選手(バウラス・ヌイ代表) vs ネヴァモア選手(特別出場枠)
「試合期間は9月24日まで。死んでアースの御許に行ってしまわないように・・・ふふふ・・・それでは行きましょう、華麗なる惨劇を・・・BFアース神殿戦 ――――― 開 幕 ――――!!」
〜「いかに格好良く負けるか」を目標に、「魅せる」事をテーマにした秩序ある戦闘RP(ロールプレイング)〜各国から選手が出てきますので、執行部が組み合わせを決め、指定された相手と1対1の戦闘RPを行うイベントです。・10日間の戦闘であること。・登録票を提出し、登録票に無い技・魔法の使用は禁止であること。・勝敗がなく、カッコイイ負け方を追求する。詳しくはHPがあるので、そちらを御覧下さい。(携帯不可)BF(バトル・フィールド)HPhttp://www.globetown.net/~bfworld/
ここの会場スレッドには、選手・執行部以外のレスは無さならないよう、お願い致します。また、応援スレッドが出ています(出ます)ので、応援はそちらにレスして下さい。試合が後半になりますと、一番カッコイイ試合を決定するスレッドが出ます。どうぞ、御投票下さいませ。尚、選手にはここで初めて対戦相手を知りました。即興RPを選手に課しております。選手はそれぞれあまり面識の無いであろう人と対戦しています。メッセや伝言などでの打ち合わせを行ってはいけない事になっておりますので、御了承下さい。また観客の皆様は、そんな条件の下で選手が戦っている事をご承知の上で御覧下されれば幸いです。
この世で絶対の力を持つ「アース神」その姿、力に生き物は信仰し、憧れたのか。それとも畏怖を覚えたのか。先人達によって築かれた神を讃える城、アース神殿。幾世紀も経ってるはずのこの建物が未だに朽ち果てる事無く、荘厳さを保っているのは、築いた者達が抱いた思いが絶対的に強かったからに他ならない。宵闇の中、一人の男が立っている。何をするわけでも無く、只その手に持った酒の空き瓶を手の中で転がしながら。男は待っていた。まるで久しぶりに会う恋人を探す様な表情で。心躍るその気持ちを隠し切れずに自然と笑みが浮かぶその顔で。男の名はヤヌス。ヘルハンプール1の酔っ払い。
微かな星の輝きを受ける、このアース神殿。より神秘性を増すこの場所に一人の男が歩いていた。男の名は、マイロン。その服からはみ出す腕だけを見るだけでも騎士か傭兵かと思うほどの発達した筋肉があった。正確には、武闘家である。男は、赤色の長髪を風に揺らがせながら、静かに、そして旅人を歓迎するかのようにそびえ立つ像の間を歩いていた。「クリフ・アーシェント……か。」会ったこともない人の名をつぶやく。それが対戦相手なのだ。どんな者か知らない。聞いているのは特別出場枠で参加してる選手と言うこと。「…つまりは、並々ならぬ相手か?」男は、その推測が何の役に立つのだ?と気付き、一人苦笑する。
荘厳な神殿の中、暗闇の為か奥まで見通すことができず、まるで無限に続くかの如く錯覚させる広く長い通路。石の床を乾いた高い音を響かせ、まるで己の存在を誇示するかのように歩く。暗闇の中、恐れも、脅えも、躊躇も無く挑発するかのように足音を響かせる。松明の明かりが顔を僅かに照らし出す。赤い髪が燃える炎のように浮き出る口元に小さく笑みを浮かべているまるでこれから始まる凄惨な闘いを歓迎するかのように。
そこは『異界の魂』である自分を、この地に縛り付けている『聖神』を祭る神殿。 この場所が自分の戦場に選ばれたのは、ある意味運命なのかも知れない。 そんなことを考えながら、少年は目の前に立つ彫像を見上げる。 神殿に何処からか差し込む光に照らされた、天使の―――いや、神の彫像。 この世界の管理者、聖神アース。 その姿をしっかりと瞼に刻み付けると、少年は頭の中で告げられた『待ち人』の方を向く。 重苦しさすら感じる静寂の中、小さな足音が響き渡る。 少年―――ゼフィリシアはその深紅の瞳に、宵闇の中に立つ一人の男の姿を映した。
「また・・・戻って来たんですね・・・」人々の記憶にも新しい、かつて偽りの神の力を得た少女がポツリ・・・と神像を見上げていた眩しい程の神々しさすら虚ろに、ただ時だけが永遠たる場所真実もなく、虚偽もなく「神」とした人々の心が生み出す幻に、何を思えばいいのだろう?ぱさり・・・神殿を吹き抜ける風に一瞬目を閉じる待ち人が現れるまでまだ少し時間があるだろう近くの大きな柱に身を委ね、ぼんやりとしゃがみ込んだ回りの景色を出来るだけ見ないようにしながら
「いやぁ、遅れました。困った困った」一人の男が、特に急ぐわけでもなくぶらりぶらりと姿を現す。大会開催宣言よりかなりの時が経ってからの入場。独り言とは裏腹に口元に不敵な笑みを浮かべながら。ゆっくりとゆっくりと今宵の対戦相手の事を考えながら。ゆっくりとゆっくりと「まさか彼と闘うことになろうとは」敬愛する相手との対戦。その事実に胸躍らせながら歩を進める。愛する人を自らの手で傷つけられる喜び。「すぐに参りますね」ゆっくりとゆっくりと
世間一般ではアース教と一言で言われるが、実際には大小様々な宗派をひっくるめた総称である。このアース教皇を名乗るネヴァモアも、その実は一宗派の領袖というだけに過ぎない。今回の戦いの場となっているこの神殿は別宗派のものである。「異端」という言葉があるように、宗教において別宗派とは異教以上に忌むべきものとされる事が多い。しかしアース教の世界でそのような争いが起きたという話は聞かない。教義論争の一つでもありそうなものであるが、それすら公の場で行われた記録は無い。
理由としてはアース教自体が現状では世間一般に浸透しているとは言えず、俗に言う「内輪もめ」で消耗するのは避けるべきだという目論見が各宗派にあるようである。とは言えどの宗派も、どの派の領袖も、自分達の思想が最善と考えているのは同じ。ネヴァモアはアース像の面前で敬虔と違和感、その両方を同時に感じ複雑な気分でいた。「来たか」柱の影から白い僧服に二本の長剣を帯びた姿が現れた。「準備はできている」
長い通路に響く足音がいつしか2つになる。少し開けた十字に道の交わる場所で正面からお互いに相対する。「マイロン・K・ディムか、俺がクリフ・アーシェントだ」短い自己紹介、喋ると即座に走り出す相手が何か言ったようにも思ったが既に耳に入ってはいない。あわせるようにマイロンも駆け出す部屋の中央、お互いの繰り出した拳がぶつかりあい軽い振動が部屋を揺るがす。すぐさまお互いに距離を取り構える「同じ格闘家か、おもしれえ!!」
「お待たせしました!…と言っても、私のお相手は何処に……」神殿に並ぶ彫刻群などをゆるりと見て回る時間は無かった。知らせを受け、使い慣れた二振りの刀だけを持って駆け付ける。息切れはそれ程でもない。月明かりが横目にちらっと見えた。この対戦場所…吉と出るか、それとも……「…遅れて申し訳ありません。レニーシアさん、ですね?」柱を背に座り込んでいる彼女に声を掛ける。これから起こる事など考えもしないような、穏やかな口調で……
傭兵王国クルダを発祥とし、今もなお武の国としてその名を轟かす国、ジグロード。数々の戦いを乗り越えたその国民性は、正に戦士。そしてその国の代表。深紅の瞳が真直ぐに俺を捉える。背けず彼を見るのが武人としての礼儀。其処に言葉など無用。愛剣を抜き・・・構える。二人の挨拶は其れで充分、後はこの身砕けるまで戦うのみ。何が合図であったのだろうか?確かに二人の間に有った筈の距離。今は既に無い。触れる武器の音だけが遅れて鳴らした鐘の音。
風が変わった・・・?初めてなのにどこか懐かしいような香りゆっくりゆっくり立ちあがり、顔を上げる月明かりに映るのは、神の舞台を鮮やかに染め上げるパートナーになるだろう相手それまで無表情に佇む少女に、喜びとも悲しみともつかない微笑がうかび、拳の感触を確かめるかのように何度も握り直した懐かしい香り・・・目の覚めるような、まるで鮮血にも似た艶やかな香りぱさり・・・風が変わったもう1度、無邪気な少女の顔に戻り笑顔を見せる「こんにちは、お相手お願いしますね♪」
「武闘家か?」クリフ・アーシェントと名乗る男を見たとき、率直に口走った。しかし、その言葉が相手に届いたかどうか分からない。確認する間もない。相手は、向かってきたからだ。一撃目・・・試合の合図とばかりに双方の拳がぶつかり合う。その反動で相手との距離を置く。「これは楽しくなるな。」マイロンは、武闘家としての血が騒ぎ始めるのを感じ始め、つい口元を緩めた。しかし、すぐさま闘気を丸出しに相手に再び飛び込むのであった。
良い風が吹いている。神殿という厳粛な場所のせいか、はたまた今宵の出会いに対する期待のせいか。実に心地好い風が吹いている。既に他の選手達は対戦を始めているようだ。遠くでかすかに音が聞こえる。「我々は我々で気ままにやりましょう」暗がりに白い僧衣はよく映える。松明の灯りに照らされる彼は美しかった。「お待たせ致しました」一礼し、おもむろに抜刀をするが構えはしない。わずかな間を楽しむかのように、相対している。風は止んだ。
突然―――そう、それは誰が見ても突然だった。 しかし、まるで示し合わせたかのように同時に斬り込んだ二人の剣は、静まり返った神殿に戦いの宣誓を響かせる。 それが、合図。 そう、始まりの合図。 ここからが、戦いの始まり。 斬り結んだ刃越しに、真っ直ぐな視線がぶつかり合う。 まるで突き進もうとするかのように、お互いに前へと力を込めていた。 僅かに膠着状態が続いたが、それはこちらが後ろに飛んで間合いを取ったことで崩される。 そんな時でも、視線だけは真直ぐに向けたままで。
それぞれの手に持った剣を握り直し、構える。 ずっと使っている双剣・月煌剣【雫】の、この手に馴染んだ感覚が気分を落ち着かせてくれた。 ≪U−ブレイン、戦闘起動。空間情報把握、開始≫ U−ブレイン。 それは、ゼフィリシアの体内に存在するもう一つの脳ともいえる存在。 情報を瞬時に伝えることで、戦闘をサポートするのである。 ゼフィリシアは再び床を蹴ると、双剣を月のように煌かせてヤヌスに斬りかかる。 再度刃のぶつかり合う音が響き、闇の中に火花が散った。
「こんにちは、お相手お願いしますね♪」まだ顔立ちにあどけなささえ残る、目の前の少女の一言。身体に震えが走る。先刻見せたあの複雑な微笑は其処にはない。そう…無邪気さ故に時折見せる、子供の一瞬の狂気のような。彼女にそれを当てはめるのは失礼な事かも知れないけれど……「…少々、考えが甘かったのかも知れませんね……」ぽつりとこぼす。どうやら『覚悟』が鈍っていたようだ。間を少し空けると、一つ深呼吸して彼女に笑顔を返す。「それでは、そろそろ始めましょうか」自然体のまま、私は刀に手を掛けて……
ネンテという男をネヴァモアはよく知っている。あくまで風聞と資料が主の話であるが。彼にとってネンテという人物は道化である。当人がそれを聞いてどう思うかは知らないが、とにかくネヴァモアの認識上はそうである。それも超一流の道化として、である。どうやら向こうは自分に好意を抱いているらしい。それは直感で判る。しかし、ならば何故とネヴァモアは考える。(この組み合わせ……偶然か? 意図的か? 意図的ならば何故私などと戦いたいと欲する。 戦って面白い相手でもあるまい)
疑問はあったが、今は考える時ではない。試合後に聞けば済む話である。風が止んで一瞬の静寂が訪れたその時、ネヴァモアは腰に帯びた二振りの長剣を抜き放った。よく見ると奇妙な形状の剣である。刃の部分は真っ直ぐなのに対して、柄の部分が若干彎曲した構造になっている。普通は逆にするものであり、どうも傍目には使い難い印象を受ける。鍔は無く、代わりに太陽のシンボルが形取られている。『太陽と戦慄』それがこの剣の銘である。「太陽」は恐らくその意匠によるものだろう。しかし「戦慄」とは?
「では私から行こう。礼儀正しさに敬意を表して一つ言っておく」彼と同じように軽く一礼すると、ネヴァモアは剣を構えて言った。「速いぞ」そして床を蹴り、目の前の不思議な笑みを浮かべる男目掛け切りかかっていった――言葉通りの異常な速さで。この「速い」というのは技量に裏打ちされた武道の達人の速さというよりは、純粋に動物的な、即ち肉体的な速さであった。しかし何故? 書斎の人間の身体能力とは思えない。そんな事を思う間もなく、ネンテの面前を鋭い刃が襲った。
凄まじい闘気に一瞬気圧されると、マイロンが瞬時に間合いを詰め、左右の拳が連続で繰り出してくる。(くっ、速いな)心の中で毒づきながらも捌こうとするが避けきれず頬が僅かに裂ける、委細構わず回し蹴りを放つ。軽く受けられる、が「ハァッ!」僅かに開いた間合いから裂帛の気合と共に、ハイと見せてローへローと見せてミドルへハイと見せてハイへ連続して蹴りを放つ。マイロンの反応は早い、フェイクにかかる事無く全て防御する。それでもまだ止らない、蹴りを受けた為に開いた懐に瞬時に入り込み鳩尾に突き上げるように肘を入れる。「これならば、どうだ!」
その瞳、正に戦士也。その剣、正に双竜也。刹那に開いた二人の距離でさえ瞬時に、そして完璧に把握し、その双剣を煌めかせ剣撃に移る。彼の双剣に映った光は星の煌めきか、魂の輝きか。我が目に写した光景を見て、戦いの中で不謹慎と言われるかもしれないが・・・美しいと思った。美の中で起こる剣撃に戦いの本能で貪るように弾き、弾かれ、返し、返される。そして戦いは第二幕へ。
再びお互いの体が何回かの入れ換えの後、離れた。瞬時に爆発的な力を互いに溜めた瞬間、白いはずのヤヌスの剣が緑色に発光し、同時にまるで包み込むように剣の周りに風が収束してゆく。その風は南国に吹き荒れるストームの如く剣風に乗り、戦うべき相手へ。「ウィンドinミクロネシア」俺が呟いた、この戦い初めての言葉。
双方の攻撃を、双方が見切り、双方がダメージを食らう。「フェイントにフェイントを重ねあう。久しぶりに相手するタイプだ♪」さながら、久しき親友と会話するかのような笑顔で言う舞龍。しかし、手をやすめたのは一瞬のことで、再び攻撃を始める。高く空中を舞い、思いっきり右拳を振り降ろす。素早く避けられたにも関わらず、拳の軌道を変えず、その先にあった像を1つ破壊する。すぐさま踵を返し、クリフを追う。すでにその金色の目は対戦相手であるクリフしか見ていなかった。
がこん・・・彼女の獲物を見れば、それがいかに武を極めた者であるかが伝わってくるがこん・・・どこか遠くで、神殿にはあるまじき破壊音が聞こえるいや、ある意味もっとも争いに相応しい場であるからこそなのか・・・神の成否・歴史は争い、騙し、出し抜き実の人々が想う『理想』とは逆を根底として築かれた物であるのだから「・・・」一度大きく深呼吸をし、全身に気を漲らせ精神を高めてゆく
―――― 瞬間たん・・・っ床を蹴る足音は軽くしかし、容姿からは想像し得ぬスピードで一気に距離を詰めるもはやはやる心を止める事もせず一瞬で彼女の懐に飛び込み、まずは牽制打・・・とばかりに下腹部から捻り込むように拳を放った
決して油断した訳ではなかった。予測以上の疾さに、刹那の反応の遅れが生じた、といった所。けれど…範囲内。私の型は『後の先』…動きは決まっている……―――シュッ!拳の動きに合わせ、受け流すように身体を捻り流れに身を委ねる。チリッと脇を掠め、熱を感じると同時…柄に掛かった手が、今……持ち寄った二振りの内、攻を担う刀――妖刀『村正』―――足が地を掴まぬまま、閃光の速さを以って鞘から抜き放たれた。
離れた場所からの風による攻撃。 ヤヌスの剣に収束していく風を感じて、ゼフィリシアは瞬時にそれを予測した。 U‐ブレインによってすぐさま情報は伝えられたが、その暴風とも言えるような風は視認することが出来たからだ。「ウィンドinミクロネシア」 それが、初めて聞いた彼の声。 その攻撃は突風―――いや、そんな表現では生ぬるいだろう。 その風はむしろ、衝撃波に近いかもしれない。「四聖霊じゅ……」 すぐさま防御障壁を展開しようと意識を集中した。
だが―――(ダメだ、使えないっ……!) この防御障壁は登録票に記されていない。 登録してない技を使用できない以上、障壁を展開することは出来ない。 一瞬の迷いが、戦闘では命取りになる。 それ故に、次の行動は迅速に行なわなければいけない。 ゼフィリシアは自分の魂の内に眠る魔力を練り上げる。【異界の魂】 この世界において、そう呼ばれるらしいこの力。 生来魔力を持たなかったゼフィリシアが得た、この世界での魔力の源。
直前まで迫った剣風に向かって、右手を振り上げる。 右手首に埋め込まれた紅い石が魔力の煌きを放ち、右手に握り締めた白い剣の周囲に風が生み出されていく。「天魔疾風!」 この世界における最上位の風魔法と共に、剣を剣風に叩きつける。 膨大な風量を持つ二つの風の衝突により、爆発にも似た衝撃がゼフィリシアのすぐ傍で起きた。 爆発の際の衝撃で多少切り傷が出来り、弾けとんだ神殿の床の欠片がいくつか体に当たったが、幸いにもたいしたことはなかった。
爆風によって出来た煙により、お互いの姿が見えなくなったが、U−ブレインによる空間把握によって、ゼフィリシアは相手の居場所を確実に捉えることが出来る。 両手の剣をしっかりと握り締めると、再び魔力を練り上げていく。 右手首の石が魔力の煌きを纏い始めた時、ゼフィリシアは思い切って床を蹴った。 爆煙を抜ければ、すぐ目前に相手の姿がある。 わかっていたからこそ、躊躇いも無く剣を振り下ろす。 同時に魔法を放ちながら。「天魔爆炎!」 炎と斬撃を同時に相手に向かって叩き込むために。
嬉しかった。白い柱が赤く染まる。反射的に身を反らしはしたものの、その鋭い刃の切っ先はネンテの額を真一文字に切り裂いていた。ネヴァモアという人物をネンテは良く知っている。つもりだった。しかしこの現実は、まぎれもなくネンテの中でのネヴァモア像を打ち破るものであり。己の体が刻まれたという事実は、彼が自分に対して本気で向かってきていてくれる、ということを物語っていた。嬉しかった。それならば自分も遠慮せずにやらせてもらおう。そう判断し、体勢を立て直す。
体勢を整えはしたものの、自分からは手を出さない。傷を負っている自分では彼の速さには敵わないだろう。最も、傷を負っていなくても敵ったかどうかはわからないが。息つく暇もなく、鋭く正確な突きが眼前に迫ってくる。咄嗟に側面に入り身をしたものの、自分が攻撃を放つ前に彼が物凄い反応速度でこちらに向きをかえてきた。全く予想外のスピードである。「真っ向勝負では勝てませんね」
彼がこちらに向き合った瞬間に、懐に隠し持っていた砂を投げつける。そしてすぐさま側面に入り身をし、脚を斬りつけた。真っ向勝負ではあのスピードには敵わないのだから。圧倒的な強さの前には敵わないのだから。「側面から。背後から。斬り刻ませていただきますよ」入り身の際に斬られた手を隠すでもなく、そう言った。血は私の体を赤く染め上げている。何故だか私は嬉しくなった。
すぐさまにおってくるマイロンにあわせるように飛び出す突き出された拳に合わせるように拳を突き出す。衝突とともに衝撃で後ずさるが今度はひかない。「さあ、力比べいこうじゃねえか!」2撃、3撃、幾度となく互いの拳がぶつかりあう。瞬く間に数えきれぬほどの拳をぶつけ合った刹那、一瞬の空白。「ハアァァァァァ!」互いの渾身の一撃が繰り出される。
ぶつかり合う拳、飛び散る血、衝撃を衝撃がかき消すような旋律が響くそして空気が、音が、漢二人が、止まる!!「「ハアァァァァァ!」」ここに来て、双方の技が初めて出るのか。二人の気が膨張していく。最初に動きを見せたのは、マイロンの方だった。全神経の闘気を右手に集中させ、絶対の自信を持って繰り出す。アイアンクロー只の技ではない。その指は、鍛えに鍛え、生半可な攻撃はもろともしない。まさに強攻の技とも言える。その五指が、クリフの頭部を捉える!!
互いの力を込めた風の衝突。反発する二つの力は決して広いとは言えない神殿の中を駆け巡り、やがて我が身へ跳ね返る。同時に巻き起こる粉塵。視界が奪われた時の中で感じたモノは、十二分な威力を持った双刃の一撃と膨大な熱量。即座に反応しようとするが所詮限界も有るわけで。体を四反転させ直撃を避けるものの、炎の熱は確実に服を、身をかすめつつも焼いていく。痺れるような痛みと喜び。武人の狂気。
体の捻と受けた刃の衝撃。時は刹那。粉塵の一つ一つが見えるほどに。その深紅の瞳が映す光を共有出来る程に。凄惨が支配するゆったりとした時の流れの中で。不思議と笑みが漏れた。笑みを浮かべたまま・・・体重を乗せた薙払うような一撃を、想いの丈そのままに彼の脇腹へ。
ネヴァモアは最初から短期間で勝負をつけるつもりだった。自分が肉体的にそれ程秀でている訳ではないことは彼は十分自覚している。長期戦になればスタミナの劣る自分は不利。ならば最初の一撃で勝負をつけるに限る。まさか聖職者がこれ程のスピードを誇るとは思うまい。一気に虚を突いて片をつけるつもりだった。双剣による斬撃や突きを次々に繰り出すネヴァモア。相手の回避行動に即座に反応し、先回りするように攻撃を仕掛ける。しかしネンテはそれを紙一重で回避し続ける。多少の傷を負わせるには成功しているが、致命傷には至っていない。
(見事なものだ……! 我が「ディシプリン」に拮抗し得るとは)。「ディシプリン」――それは今回のBF大会にネヴァモアが登録した技の一つである。人間は通常、その身体能力の数割しか発揮できない。残る大半は眠ったままである。その内に眠った能力を目覚めさせ、筋力や聴覚、視覚といった身体能力を飛躍的に上昇させる。それがディシプリン(訓練)である。ネヴァモアはネンテが来るまでにこの能力を自らに施していたのだった。
(長引くわけにはいかない)。ネヴァモアがほんの僅かながら焦りを見せた。それを狙ってか、それとも偶然か。丁度その時、視界が一瞬閉ざされた。目が痛む。しかし目の痛みに構っている暇は無かった。脚の切り傷の痛みがそれを上回ったからだ。白い僧服の内から赤い染みが滲んでくる。ある程度深くやられたようだ。だが――「プロヴィデンス(神の庇護)……。 中途半端な傷では私は倒せない。 全力で来るが良い。それこそ、殺すつもりで」血の流れはすぐに止まってしまった。
拳を交えたとほぼ同時に迫る閃光利き腕と逆の腕を盾に、剣の軌道を逆に利用し距離を取る確かに捉えたと思ったですけど・・・腕を伝う鮮血を薄く舐め取り、改めて相手を観察する事にした獲物は二振りの刃内、一振りはすでに鈍い眼光を打ち放ち次撃を待ち構えているそしてもう一振りの・・・
剣使いとは昔、何度かあいまみえた経験があるある者は剛たる両刀に、ある者は剣技の技量に長けていたどこかに弱点があるはずですが・・・しかしそれは幾度とぶつかり、己の肉体で確かめれば良い事でしょう単純に思考を纏めると、周囲に目を走らせながら再び走り出す「・・・っ」――― ガゴっ近くの柱を力任せに砕き、それを目隠しに素早く彼女の背後に回り込んだ
双剣の攻撃がかわされ、炎は暗い神殿内を照らす灯りにしかならなかった。 思った以上に、彼は速い。 それに、やはり子供と大人の体格差ではリーチが異なる。 そんなことを言い訳にするつもりも無いが、現実的理由の一つではある。 攻撃をかわし終えた彼は、不思議な笑みを浮かべたまま踏み込んでいた。 まずい! そう思った瞬間には、わき腹に向かって体重を乗せた薙ぎ払いが放たれていた。
放たれた薙ぎ払いに向かって、狙われた方の逆の手に持った剣で防ごうとする。 だが、咄嗟だった上に体制がよくないため、防御しきれず彼の刃はゼフィリシアの脇腹を切り裂く。 さらに、体重の乗った一撃は軽量のゼフィリシアの体をそのまま弾き飛ばす。 少し飛ばされた後、何とか片方の剣を床に差して勢いと止め、その反動で起こった痛みに耐えながら体制を整える。 直撃こそ免れたものの、決して軽症ではない。 切り裂かれた部分から血が溢れ、ゼフィリシアの黒い服を内側から濡らしていく。 相手から判り難いから、平然としていれば平気だろう。
U−ブレインにアクセスし、次の指示を送る。≪痛覚遮断、身体能力制御開始、運動速度、知覚速度を2倍に設定≫ リーチの無さは速さで補うしかない。 痛覚を遮断されたことで、脇腹の痛みは気にならない。 U―ブレインから全身に伝わるもう一つの神経ネットワークが、身体機能を引き上げる。 長時間の連続使用は出来ないが、一時的に通常の倍速で動くことが出来る。 ゼフィリシアの眼には、彼の動きが先ほどよりもゆっくりと見える。 倍化された知覚速度によって、運動速度が上がっていてもゼフィリシアは普段どおりに動くことが出来る。 ただ、周りの全てが遅く見えるという空間の中で。
一瞬の後、ゼフィリシアは再び彼に斬りかかる。 倍速になったゼフィリシアの剣の一撃目を受け止めたのは、さすがと言える。 いや、驚くほどのことでもないかも知れない。 事前のモーションがはっきり見えるのだから、予測はしていた。 だが、その触れ合った刃を支点として体を回転させ、そのまま放った回し蹴りにまでは反応し切れなかったようだ。 足は彼の背中を確実に捕らえ、その体を僅かに蹴り飛ばす。 体重差があるから、攻撃に重さが無いのは致命的かもしれない。≪身体能力制御停止、運動速度、知覚速度を通常に再設定≫ 彼が立ち上がるのを見て、ゼフィリシアは再び剣を構えた。
マイロンから放たれた一撃が頭部を捉える。いや、はなからかわすつもりなど無く−例えかわそうと思ったところでかわせるハズも無いが−闘気を額に集中させ前に踏み込み受ける。血飛沫が舞う、正面から受けに行った分威力が完全にはならなかったのかアイアンクローは側頭部を掠めるだけに留まる。それでも尚、肉を切り裂き衝撃に意識を持っていかれそうになる。意識を繋ぎ止め更に踏み込む、膨らみきった闘気が弾けたように消える。
掌波「絶」闘気を掌底より叩き込み体内での衝撃に変わる技。掌底が牙を剥き、マイロンのわき腹を捕らえる「殺!」
「ヤバイッ!?」予想外の動きに不意を突かれ、クリフの掌底がマイロンのわき腹を襲った。内臓をズタズタにやられ、口から大量の血を吐く。「がっ!!」痛みから来る声なのか気合を込めた声なのか本人も分からないが、反撃の拳を繰り出す。そして、相手がひるんだ隙に距離を置き、考える。― 相手の攻撃を予想する?否!そんな必要などない。ファイトの最中に考え事しては遅れを取る!己が経験で動くのみ。それが武闘家よ! ―一瞬、師匠の言葉が聞こえた気がしたマイロンは、考えるのを止め、再び闘気をたたき出す。「今の一撃で危うく弱きになるとこだったよ。」
両者満身創痍だった。「だった」というのも、ネヴァモアの傷がたちどころに癒えてしまったからで。「らしからぬ動きをしてても、やはりそこは聖職者だったか」そのようなことを考えつつ、思案にくれる。ネンテの戦闘スタイルは「受けて逃げる」ものである。細かい攻撃でけん制し、相手がスキを見せるか疲弊したところでゆっくりと頂く。ところが今回、細かな攻撃が通用しないことが判明してしまった。「さてどうしたものか」と悠長に構えている暇はなかった。疾風の如き斬撃にみるみる体が赤く染まっていく。
傷を負いながらも何とか致命傷を得ることもなく渡り合っていたネンテだが、痛みのせいかここでわずかに動きが鈍くなる。ネヴァモアもそこを見逃す程甘くはない。好機と見るや、更に斬撃の度合いは激しさを増す。機動力を失ったネンテは防戦一方。まさに絶好の的であった。そしてネヴァモアの剣が獲物の肩口を貫いた。この痛みでは剣も握れまい。勝敗は既に決した。と、次の瞬間。ネンテは何事もなかったかのように「以前とかわらぬスピードで」斬撃を繰り出してきたのである
「貴方だけが傷を回復できるのはズルイですよ」ルール上は回復呪文を使おうと何ら問題はない。相手に対し持てる力全てを発揮することこそが礼儀。それはネンテも承知であったが。悪戯好きな子供のようにクスクスと笑いながら続ける。「なので私も、ズルイこと、しちゃいました」痛覚麻痺。ネンテが急に機敏に動けるようになった原因である。「これでお互い、殺す気で向かわなければならなくなったわけですね」大量に出血しながらも余裕のある表情で(最も、痛みを感じないので当然かもしれないが)ネンテは続ける。「仕切りなおし、ですか」どこか可笑しそうに笑いながらネンテは刀を構えた。
向かってくるのは分かった。剣を振るってくるのも分かった。普段であれば打ち落とし、体制を崩したところで追撃。後手のセオリーであり、また非常に有効な手段の一つであった。(だが何故だ?)確かに剣は受け止めた。だが余りに体制はこちらが不利。彼がこちらの予測を遥かに上回る速度で突撃、斬撃を繰り出したということに気付くまでに時間は掛からなかった。むしろ理解するのに時間が掛かったと言ってもいい。次に視界に入ったのは彼の豪奢な金髪の後ろ髪。既に彼の体は己の後ろにあり。「メキ」俺の背中が嫌な音を立てた。程なく勢いで壁に叩きつけられる。
壁にぶつかった反動で体制を立て直して再び対峙。男は少年を見る。その小柄な体に如何程の力が眠っているのか?最上級の魔法を使いこなし、反応しきれぬ速さで動き、背中に衝撃が走るほどの蹴りを出せるものなのか?軽いショック。そして大きな喜び。武人が武人として敬意を払える相手に巡り逢える。なんとも素晴らしき事かな。幾千万と居る戦いに身を置く者で、何人が敬意を払える者と対峙できるだろうか?武に生き、武に誉れ、そしていずれは命を落とす。なんと多くの者が戦うことに喜びを感じる者と出会えぬまま地獄に落ちる事だろうか?なんと己は幸せなのだろうか?
剣を正眼に構え、彼の瞳にその身を映す。新月の夜と神尊び城と武人二人。夕焼けの海に沈み行く一抹の氷を眺めるが如く気だるくも新鮮で、痛みつつも幸せなこの空間を享受しながら。口を開く。「ヘルハンプール公国親衛隊統括ヤヌス。宵の刻に酔いどれる事を至上の喜びを見出す故、酔闇の堕天使が字。今宵如何なる酒をも凌駕する戦いの酔いに浸りたく参上して候。いざ!戦神に誘われるまま、この身果てるまで勝負致さん!」体は自然に動いた。体軽く、心鋭く。名乗りを上げての一撃に小細工などはしない。只真直ぐに、只全力で愛剣を振り下ろすのみ。
彼の名乗りを聞いて、ゼフィリシアは心が躍るのがわかった。 痛覚を遮断しているとは言え、完全に傷のことを忘れてしまいそうになるぐらいに。 認められている。 そう、感じたから。 全力で真直ぐに突き進んでくる彼―――ヤヌスに対して、ゼフィリシアもまた口を開く。 相手が名乗った以上、こちらが名乗らないのは礼儀に反する。 それに、自分も相手を認めているから。 その強さ、その心を。 そう、戦いが始まったその時から――――
「僕は、ジグロード守源聖【熾】、ゼフィリシア……」 正面から斬りかかるヤヌスを真直ぐに見据え、ゼフィリシアもただ動いた。 心の赴くままに。 刃の進むままに。 身体制御したわけでもないのに、体が軽い。 真直ぐに前だけが、相手だけが見える。「この守源聖の名と、光鉄の熾天使の字にかけて、全力で―――受けて立つ!」 これは誓い。 返答と同時に、戦いの誓い。
相手の全力の一撃を、こちらも全力の一撃で受け止める。 静寂の中に、澄んだ金属音が鳴り響く。 それから、二合、三合……と。 二人は幾度となく剣を打ち合わせる。 打ち合わされる剣が奏でる旋律は、お互いの心を鼓舞するかのよう。 その立ち回りは、神に捧げる舞。 お互いが、お互いに出会えたことへの感謝。 その喜びを表しているようだった。 そして、ひときわ大きな音と共に、その衝撃を利用してお互いに距離をとった。 再び静寂の中に構える二人の間に流れる空気は、以前とどこか違うように感じた。
ファーストコンタクトは…辛うじて五分。距離が開き、多少の思考時間が生まれる。(観察されるの、苦手なんですよね……)普段なら恥ずかしさのあまりワケも無く突っ込む所なのだが、如何せん大慌てで会場入りした為、ハリセンは持参しておらず。(今更『ボケとツッコミ合戦!』…とはいきませんよね……)余裕があるワケでも、おふざけのつもりも更々ない。この場合…下手な先入観より、その都度的確な対応を施すが吉。それは彼女なりの冷静さの証であり、まだそれを保てたという事。月明かりを浴びて妖艶な光を放つ村正を鞘に納め、次を待つ……
(……来る!)先刻同様に向かってくると思われた拳は、意外な方向へ伸びた。柱が粉砕され、それと気付いた時には既に気配は後ろにあった。「くっ!」すかさず横方向へ飛ぶも、完全に動きは読まれている。菊一文字を抜き放ち、後方へ飛びつつ繰り出される連打に耐える。――麗刀『菊一文字』―――守を担う刀。華麗な菊の紋様が施された細身の刀身で、村正程の斬れ味は無い。が、その滑らかさと軽さもあって攻撃を受け流す事に長けている。……但し、耐えるにも限界はある。一瞬の隙を突かれ、ガードを崩された所に撃ち放たれた拳。それが左肩の付根部分に直撃し、リンスは衝撃で吹き飛ばされた。
「かはっ!……くぅ…ぅ……」柱に背中から打ち付けられ、息が漏れ膝から崩れ落ちる。(レニーシアさん、手慣れてるなぁ)なんて事を考えながら……相手の懐に身を置く事で、距離を殺し動きを制限させる。得物に素手で挑む時の基本を、彼女は忠実にこなしているのだ。無論、そういった相手とは幾度も対戦済みではあったのだが。(それでもこの迷いの無さは…流石、といった感じですね……)菊一文字を逆手に持ち替え、空いた右手で村正を抜く。「攻・守の刀による協奏曲…存分に堪能なさって下さいね」今度はこちらから、とでも言うように一気に距離を詰める。
決まったと確信する、が即座に来る反撃に驚愕する。それでもダメージはあったのだろうマイロンが距離を取る。『絶』をくらって尚動ける事に感嘆する「おもしれえ、面白すぎるよなあアンタもそうだろ?。さあ続けようぜ、もてる全てを持って死力を出し尽くしやろうじゃないか」驚愕に乱れた心を戻し語りかける、闘気が膨れ上がり誘うように構える。
ネンテの肩を『太陽と戦慄』が貫いた時点で勝敗の決着を確信したネヴァモアであったが、全く動じる様子も見せず反撃を見せてきた相手に彼は激しく動揺した。その隙をネンテが見逃す筈も無く、ネヴァモアは頬に大きく傷を負ってしまった。傷はすぐにプロヴィデンス――神の庇護により高い再生能力をもたらす――の力で癒えはしたものの、ネヴァモアは動揺を抑え体勢を立て直すために一時相手との間をとった。「汝、痛みを感じないのか」。よく通る低い声が聖堂に響いた。
(私と「逆」の能力か……)ネヴァモアは自らの不利を感じていた。体力の消耗だけが理由ではない。「ディシプリン」は身体能力を高める能力。身体能力には無論、感覚の力も含まれる。敏感になるとは同時に痛覚が増すということでもある。つまり彼は傷こそすぐに癒えるものの、その痛みは常人を上回っているのである。ネヴァモアの体力は確実に消耗しつつあった。必勝を期す筈の能力が裏目に出た格好である。(この「痛み」っ! 確実に我が戦力を削いでいく。 ところが彼はその「痛み」を感じないのだ。 フフ……面白い)。
ネヴァモアが床を蹴り再び攻撃を仕掛けた。双剣を繰り出していくその攻撃は、一見これまでの繰り返しのようにも見えた。だがネンテは気付いている。彼が同じ手を繰り返す程愚かではない事を。カチャリという金属音がネンテの耳に微かに聞こえた。単に剣と剣が接触した音ではなく、何か細工めいたような音が。「?」交差された二本の剣がネンテの身を「同時に」襲ってきた。二つの刃物が交差しているこの形状を誰もが知っている。ただ大きさと用途が常軌を逸しているその道具の名は――「捉えた……もはや逃さぬっ!」――鋏。
「師匠に教えたもらった技、使わさせてもらいます!」そう言ってマイロンは、腰に巻いてる布を外し、それに氣を込める。すると、腰布は、生き物かのように動き出し、次第にまっすぐに、細く、直槍に似た形状を取った。それは、もう只の布ではなく刃物のような切れ味が出るように相手を魅せた。【クロス】マイロンは、この布を武器として扱うときは、そう呼んでいる。ある地方では、これを氣攻闘法という拳法の「硬布拳砕攻」と言われてるが、彼、マイロンの師匠がその拳法の使い手だったかは定かではない。そして、両手でその腰布を持ち、左手側を相手に向けた構えを取り、仕掛けの機会を伺うのであった。
二人に開いた距離はやや遠く。長さにして40m位だろうか。例え新月の夜でも、明かりが松明しかなくても彼の姿は眼にはっきりと、澄み渡る青空の下で見るよりはっきりと。少々の沈黙。ふいに懐に手を入れて瓶を取り出す。出てきたのはビール。何をするわけでもない、飲むために取り出した。神の御前でよく冷えたビールを喉にゆっくりと流し込む。口の中にほのかな甘みとしっかりとした苦味が残る良いビール。「ふぅ」一口、満足の気持ちを述べる息一吐き。もう一度愛剣をしっかりと握りなおす。
一気にその場で剣を振り回す。技を出すために。心の中でリズム。2ビート、4ビート・・・16ビート・・・そして白剣は残像でヤヌスを取り囲む白い玉となる。「ダンス・ダイブ」高速の剣風。無秩序な斬撃。再び足は彼のほうへ。剣撃の舞踏曲を踊るために。戦う二人の姿は英雄を讃える叙事詩の一幕。
第1歩を強く踏み込む!そうすることによって一気に間合いを詰め、攻撃する。一撃・・・二撃・・・三撃・・・武器を持ったとはいえ、有利になるわけではない。しかし、また同じ掌底を食らうわけにはいかない。あんな技をまた食らうような事あれば、負けどころか命すら危ない。一瞬、愛する妻と娘の顔が脳裏を掠める。「っ!?」虚をつかれた。いや、こちらが一瞬とは言え、考え事したため隙ができたのだろう。痛恨の一打をモロに貰った。それが合図かのようにクリフのペースが展開され始めた。
無秩序な剣風を巻き起こす白い玉となった彼。 ゼフィリシアはそれを見て、一瞬立ち尽くす。 あれだけの剣撃と簡単に打ち合えるほど、ゼフィリシアの腕は卓越していない。 身体能力制御、それにこちらは双剣だから、不可能ではないかもしれないが…… ラーニング能力があるとは言え、技術を簡単に習得できるわけじゃない。(どうする……) U−ブレインから送られてきた情報では、近距離に近づくだけでもその剣から生み出される衝撃を受けることになる。 すなわち、近づくことすら難しい。
だが、こちらに向かってくる彼に対し、逃げるという行動は取れない。 何より、取るわけには行かない。 何か手を思いついたのか、ゼフィリシアは右手を真直ぐに彼に向ける。 その手首に埋め込まれた紅い石が魔力の輝きを放ち始める。 そして、徐々にゼフィリシアの右腕に風が生まれる。 天魔疾風。 風を敵に向かって放つ魔法。 それを右手に持った黒い剣を中心に発生させているのだ。
本来、魔法を使うには呪文の詠唱と言うものが必要になる。 しかし、ゼフィリシアにはこの詠唱が必要なかった。 それはU−ブレインが魔法の構成を司る呪文や詠唱を瞬時に情報として処理することが出来るためだ。 つまり、ゼフィリシアは瞬時に魔法を起動することが出来るのである。 天魔疾風を右手の黒い剣に纏わせたまま、ゼフィリシアは床を蹴った。 黒の剣を盾にするかのように。 そして、相手の攻撃の―――剣風の間合い。 そこに至って、ゼフィリシアは右手の風を解き放つ。
「天魔疾風!」 風魔法が放たれると同時に、剣の間合いに入ったため弾き飛ばされる黒の剣。 体を持っていかれないように、剣は逆らわずに手放す。 右手が相手の剣風に少し切り裂かれたが、すぐに体まで引き戻し追加分を無くす。 そして、風と剣を弾いた衝撃で一瞬だけ彼の剣が遅れる。≪身体能力制御、運動速度、知覚速度を2倍に設定≫≪左筋力のみ3倍に設定≫≪ラーニング能力【刃】起動、対象『白の剣』≫ その時、U―ブレインの高速並列処理により、これらのことが行なわれていた。
飛ばされた黒の剣。 同時に、ゼフィリシアの左手に握られた白い剣の刀身が変化した。 まるで、周囲から原子を取り込むかのように、一瞬で巨大化する。 それは2メートルを越す長さと、10センチ超の肉厚を持つ鉄板のような剣だった。 膨大な重量を持つその剣を、倍化された左手で力任せに薙ぎ払う。 速さと数に対し、直接的な威力と重さによる一撃で対抗したのである。 剣風の届く間合いのギリギリ外から、ゼフィリシアはその巨大な剣で風を唸らせながら剣撃を繰り出した。
何度も撃を合わせるうちに、マイロンに一瞬の躊躇が生まれる。瞬時に顔面に拳を叩きつける。「糞がっ!」まるでデタラメに拳をマイロンに叩きつける、威力など無視してただ怒りに任せるかのごとく殴り飛ばす。壁に叩きつけられるマイロンを睨みつけ叫ぶ「ふざけんなよ、そんなんで俺が満足するとでも思ってんのかよ?てめえも武道家ならしらけさせてんじゃねえよ!」そう叫ぶと、構えを取り闘気が膨らむ。「さあ立ち上がってこいよ、立ち上がって全部ぶつけてこいや!」
幾度となく打ち込み、体制を入れ替えながらまた次の攻撃へと転じる格闘家であり、魔法の一切使えないレニーシアにとって遠距離での攻撃はない必然的に「肉を絶ち骨を砕く」戦法でしかあり得ないのであるが・・・いかんせん、戦法が単調になりやすく先が読まれやすいのも事実長期戦になればなる程不利になる―――相手の形勢が崩れたら一気に叩き込め亡き師匠の言葉を思い出し、確実に急所を狙って・・・撃つ撃つ撃つ
一瞬のスキをつき、一撃の元に彼女の左肩を捉える!後方の太い柱に打ち付けられる彼女を見・・・出来るなら、そのまま起き上がらないでいて欲しいと願ったこの神殿の空気がジワジワと侵食してゆく気だるい脱力感に抗いながら、それでも構えを崩さず次の出方をフル回転で練り上げる願いも空しく、立ち上がり再び刀を構え・・・・・・来るっ今戦初めての受身に、多少の緊張を感じる間もなく瞬時に目前に迫って来る刃の煌きが、月光の下ますます美しく映った
肉体を超越した威力充分な一撃。剣を弾かれ、風で勢いを消されてその上これである。全く天は彼に何物を与えたもうたのか。だが感慨に耽っている暇は無い。巨大な剣が今や遅しと迫っているのだから。素早く剣を戻し力を溜め・・・魔力に呼応し、急速に光り始めた剣を裂帛の気合と共に鉄板とも言うべきソレにぶつける。インパクトの瞬間、魔力を開放。強く・・・強く・・・力強く踏み込んだ軸足の力を全く無駄にすることなく上半身の捻りとして伝える。己が使える唯一の力技で、それなりに自信もあるのだが、それでも相手の力を打ち消すには到らず再び壁に叩きつけられる。
飛ばされた男はすぐさま反転し、少年に斬りかかる。少年も双剣を握り締め、其れに呼応する。互いに大技を出した直後。今度は一転して純粋な剣技勝負となる。金髪の少年と銀髪の男。歳かけ離れてるように見えるこの二人の戦いはまるで幼き日に只剣を打ち込むことに夢中だった、在りし日を思い起こさせる。まだ蒸し暑い夜の中、二人の汗が松明の明かりに反射し、様々な色合いを映す光景そう・・・それはアフロディーテが夏の終わりに残したセピア色の涙。只強い者と戦いたくて、打ち倒したくてがむしゃらになっていた記憶の片隅に残る熱い気持ち。
苛烈さを極めるネヴァモアの猛攻に押されていたネンテだが、ここで状況が変わる。ネヴァモアらしからぬ、双剣による大振り。何か違和感を感じつつも、好機を逃すわけにはいかぬ、と踏み込む。と同時に耳に入るは、金属音。眼前に広がるは刃の壁。この感情を知っているぞ、とネンテは思った。例えば、愛する者が流れ弾か何かに当たり頭をなくしてしまったのを目の当たりにしたとしたら、それを感じることだろう。恐ろしいまでに無慈悲で冷たく、我々の日常を容赦なく刈り取る理不尽な悪意。それは「戦慄」地面に転がる肉片を見下ろしながら、ネンテは己の左肩が失われたことを感じた。
最近の医学は発達している。例えば戦闘で己の半身が吹き飛んだとしても、状態や状況次第では何ら問題なく治癒してしまう。幸いにも左肩は綺麗に切断されたので、速やかに処置を施せば以前と変わらぬように過ごせる。あくまで、速やかに処置が施されれば、であるが。このままだと地面に落ちている左肩は間違いなく、腐る。痛みこそ感じないものの出血は対戦相手よりも遥かに多い。血液不足により意識をなくすのもそう遅くはない筈だ。幸いにも利き腕はまだ残っていた。どちらが死ぬかな。そう考え刀を握ると、笑みが自然にこぼれた。
痛みはないものの、度重なる出血により腕がもう動かなくなってきている。攻撃は出せて一、二度。それを悟られないように笑みを浮かべつつ、奇妙な構えを取る。首をもたげ大きく前傾。体全体を屈め、さながらクラウチングスタートの格好。体全体を使った必殺の突きの姿勢である。が、ネヴァモア相手には読みきられてしまい通用しないだろう。ならばここは。その姿勢から突如、日本刀を投げつける。直線的な攻撃が来ることを読んでいたネヴァモアが難なく回避したところに合わせて突進。ネンテの右指ががっしりとネヴァモアの首に食い込んでいた。「いささか野蛮、ですかね」血に染まりつつ首を締め上げる。
幾度となく打ち合う二人。 だが、徐々にゼフィリシアが押され始めていた。 身体能力制御による肉体的ダメージが蓄積されてきたのだ。 それに、脇腹に受けた傷の出血もまだ止まらない。 生機融合体であるゼフィリシアの自己再生能力は、人のそれを遥かに上回るものの、あれだけの動きをしていればさすがに回復は遅くなる。 出血は、そのまま体力を奪い取っていく。 痛みこそ感じなくしているものの、肉体の疲労やダメージまで消すことは出来ない。 そして、今まで双剣―――つまり、二刀で戦っていたのに対し、現在ゼフィリシアは左手に一振り持っているだけだ。 それもまた、押され始めた原因といえた。
ヤヌスの振り降ろしを弾き、そのまま踏み込んで薙ぎ払うように剣を振るう。 彼がそれを跳んでかわしたのを見て、すぐに防御の姿勢をとる。 間髪いれずに剣撃が打ち下ろされる。 自分より、重さも速さも、そしてリーチもある彼に、ゼフィリシアは苦戦していた。 ギリギリと刃が悲鳴を上げながら、お互いの力比べとなる。 鍔迫り合い。 だが、身長ぶんだけ上から抑えられるヤヌスの方が優位に立ち、ゼフィリシアは押さえつけられる力を使って床をすべり、相手の後ろ側に回る。 しかし、すぐさま振り向きざまに放たれた薙ぎ払いを防いだ拍子に、ゼフィリシアは力を受け止めきれずに飛ばされ、床に倒れこんだ。
ゼフィリシアが倒れた状態からすぐに立ち上がると、再びお互いに斬りかかる。 ゼフィリシアは剣を振るった後、相手の剣とぶつかる直前にラーニング能力【刃】を起動させ、刀身を巨大化させる。 避けた方がいいと判断したのか、ヤヌスが大きく後ろに跳ぶ。 ゼフィリシアは剣に戻すと、剣をそのまま高く放り投げる。 そして、自身は素手のままヤヌスに向かって駆け寄っていく。 右手首の紅い石が煌く。 そして、二人がぶつかり合う前にゼフィリシアが叫ぶ。「来い! 無限の終焉……インフィニティ・エンド!!」 声と共に、ゼフィリシアの右手の中に一振りの長剣が出現する。
再び、壮絶な衝突音。 同時に、風を切り裂く落下音。 ヤヌスが咄嗟の判断で飛び退ると、一瞬後に巨大化した先ほどゼフィリシアの投げた白の剣がその場に深々と突き立てられた。 ヤヌスは着地と同時に床を蹴り、ゼフィリシアに対して剣を突き出す。 それを、ゼフィリシアは体を横にスライドさせてかわしながら、床に刺さったままの白の剣を右逆手で引き抜く。 するとその刃が元の戻り、同時にそのまま薙ぎ払われた剣がヤヌスに向かう。 彼はそれを下がることで避けたが、ゼフィリシアはそのまま右手の剣を突き出した。 その攻撃は横にかわされ、同時にその剣もまた弾き飛ばされてしまう。
壁際に転がるそれぞれの月煌剣【雫】。 戦闘中の回収はほぼ不可能と判断し、ゼフィリシアは追撃の剣を大きく跳ぶことで避けながら間合いを取る。 目で簡単に飛ばされた武器の位置を確認すると、ゼフィリシアは長剣【インフィニティ・エンド】を晴眼に構える。 ゼフィリシアの体力も、そろそろ限界が近づいていた。 剣の柄を、ぎゅっと握り締めた。 気持ちが負けないように。 心が折れないように。 戦う意思が、戦意がくじけないように。
「ふざけんなよ、そんなんで俺が満足するとでも思ってんのかよ?てめえも武道家ならしらけさせてんじゃねえよ!」一瞬、何が起きたか理解できなかったマイロンは、そのまま壁に叩きつけられる。(ああ、俺としたことが本気と本気に水を差すようなバカな事を・・・)「・・・仕切りなおしか。」全力で行く。それが彼にしてしまった無礼の唯一の謝罪と思ったからマイロンは、布を再び腰に巻くと、残る全闘気を爆発させる。― 満身創痍 ―肉体を動かすのは、すでに気力のみだった。
何事も無かったかのように強気な姿勢を『見せる』リンス。距離を詰め、一心不乱に左右の剣閃を繰り出して『魅せる』。そうでなくては心まで折れそうだったから。左肩に受けたダメージは、見た目とは裏腹に深刻な有り様。現にその剣閃は、村正を持つ右からのものに片寄っている。退く訳にはいかない。例えこのまま腕が動かなくなろうとも。(私はまだ、あなたに対して何もして差し上げられていない)だからこそ……舞ってみせるのだ。感謝の気持ちを込めて……この光景が、彼女のほんの一滴の想いの糧となるように。私の剣舞、そして私の『芝居』を以って、それを伝える……
「……頃合い、ですね……」無論、自らの状態を指してぽつりと出た一言である。全力で左の腕を振り切れるのは、これが最後であろうという事。妙な構えだった。二刀を鞘に納め、逆手と順手、それぞれの柄に手を掛けている。「【殺陣―章ノ壱―】…発動します……」置いた間合いをこれまでの比でない程の疾さで翔け、跳ぶ。目標は斜め下方。全身を捻り、左腰の二刀を反動で抜く―――――ひとつ ふたつ みっつ―――すれ違いざま、独楽状の高速回転で六種の剣閃を叩き込む。着地……異様な程の静けさが其の空間を支配していた……
― 武闘家は拳と拳で語るもの ―修行時代、その意味が分からなかった。しかし、今は分かる。痛みとともに伝わる相手の喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、全てが感じられる。そして、クリフからも感じることはできた。なら、今度はこちらが伝えおう。「この素晴らしいファイトを!」本日、もう何回目のぶつかり合いか分からない。大きく踏み出す。おそらく、これが最後の前進となるだろう。もう後退もない。そう感じるのか、もはや一片の曇りも見せつけない。そして、勢いに乗った拳を繰り出す。途端に火花が、血しぶきが辺りに飛び散り始める。
マイロンの拳が顔面にめり込む。委細構う事無く、己の拳をマイロンに叩き込む。拳を撃ちあう、時には顔面を、腹を、胸を互いに撃ちあう、1歩の後退もそこには無くただひたすらに飽く事無く撃ち合う。何度撃ち合っただろうか、不意に互いの拳のが胸を突き合う「「ぐうぅぅぅ」」押し合い押され合い、距離が開く。それまでの応酬が嘘のように静寂が2人の間を支配する。
「楽しい時間もそろそろお終いだ、決着をつけようじゃないか」既にお互いに立っている、いや生きている事さえ不思議な状態だ。弱々しく左腕を上げる、腕に飾られた宝珠が淡い光を放つ。「神に牙剥く獣よ、我血となり肉となり、我牙となれ。獣召喚憑依」突如クリフ肉体が隆起する、異常なまでの筋肉の膨張に悲鳴をあげるように傷口が血を吹く。闘気が異常と言っていいほどまでに膨れ上がり、凄まじいプレッシャーとなる。「ウオォォォォォォ」獣じみた咆哮、そしてマイロンに向き直り口元を歪める。「次で最後だ」
互いに待ってる時間は無かった。時間も、残された動く力ももう僅かだと知っていたから。これが最後、カーテンコールを彩る最後の一幕。謳おう、この戦いを。演じよう、喜びをもって。「神突撃」最後の切り札。己が持つ最大の技。体の各部の神経伝達速度等を上げて一時的に24倍の速さで動く。外せば後は無い。瞬時に縮まる二人の距離。その剣に思いを乗せた二つの刃。もう目の前、煌く光を秘めたその瞳を逸らす事無く見つめながら。彼の繰り出した刃が己の体に向かっているのがはっきりと見えても。我、剣を繰り出すのみ。
派手な血飛沫が舞い上がった。銀髪の男の剣は金髪の少年の傷口・・・この戦いの序幕でつけたその傷口をはっきりと捉えている。だが、余りにも浅い。血が出たのはあくまで以前の傷口が閉じきっていなかったから。一方・・・・金髪の少年の剣ははっきりと相手の腹部を貫いていた。相手を倒すのに十二分なその力をもって。経緯は時として結果に掻き消される。あの瞬間、記憶に留める事さえ出来ない時の中如何なる攻防があったのか?恐らく当人同士でさえはっきりと説明出来ないだろう。それほどの瞬間だったのだ。銀髪の男がゆっくりと倒れこむ。己の銀髪を、少年の金髪を紅く染めながら。
少年は映す。自身の瞳と同じその色を。男は刻む。戦えた喜びの記憶を己の体に。過去から未来へと続く幾千の戦い。二人は確かにその中にいて他の誰でもない二人しか出しえぬ輝きを放った。・・・・涙が出た。嬉しさと、祭りの終わりの余韻を感じて。もはや指一本動かすことの出来ない体が涙腺だけを少し、緩めた。言いたい事は沢山あった。敗北を宣言し、健闘を讃えあいたい。だが今はそれも叶わぬ。揺らめく松明の明かりが俺の敗北を高らかに謳ってくれるだろう。今は其れで好い。ただ・・・願わくば・・・この心躍る戦いが二人の長い人生の中で褪せる事の無き詩に成る事を。
『太陽と戦慄』の真の力を発揮したのが災いしていた。鋏状であるが故に刃は内側にしかない。刃の外側で、且つ懐の位置に飛び込まれてしまうともはやこの武器の使用は封じられたも同然である。ならば、とネヴァモアは潔く剣を捨て、首に蛇のように絡みつく手を振り解きにかかった。指を引き剥がす。相手の顔を殴る。腹を蹴る。髪を引っ張り爪で引っかく。二人の戦いは素手による挌闘と化していた。それはもはや野獣同士の戦い――よもや神殿でこのような光景が展開されるとは、神殿を建てた建築家は予想だにしなかっただろう。
ネンテの指の力は衰えを見せなかった。それはそうだろう。達人による必殺の攻撃。ネンテは己に自信があるからこの攻撃に及んだに相違無く所詮は聖職者の細腕でしかないネヴァモアの攻撃で容易に抗い得るようなものではなかった。そうこうしている間にもネヴァモアの頚動脈は締め上げられ、確実に彼の意識は遠のきつつあった。(気絶するのか……?)神に仕える自分が他宗派とは言え神の家の中で、至聖であるべき教皇が大勢の面前で気を失う。そんな事はあってはならない。
「……フ」締め上げられているネヴァモアの喉から微かな声が漏れでた。何を言おうとしているのか。憎悪の罵声か。苦痛の呻き声か。それとも健闘した相手への祝福か。いや、そんな筈はない。とネンテは思った。自分が思う彼はそんな月並みな男ではない。ネンテはネヴァモアの口元に耳を近づけた。すると聞こえたのは次のような単語だった。「エピタフ」その時ネヴァモアの体に異変が起きた。彼の顔に、他ならぬ自分の顔が映っている!いや、そうではなかった。彼の顔が鏡のようになっていて、ネンテはそこに写る自分の顔を見たのだった。
ところが、である。ネヴァモアの肉体が蠢き、首の上のネンテの手はただならぬ触感を感じた。この肌の感覚は覚えがある。覚えがあるどころではない。それはいつも触れた事があるような……。だが異変はそれだけではなかった。「自分の首を締める気分はどんな具合かね?」鏡(のようなネヴァモアの顔)に映ったネンテの顔が口を開いたのだ。
湧き上がる恐怖、いや、奇異の念。顔面への強烈な一撃。しまったな、とネンテは思った。思わず締め上げた手を緩めてしまい、気付いた時には体が吹き飛ばされていた。でも嬉しかった。彼の他に誰がこんな戦いを見せるだろう。「汝の肉体を借りた……。肉体が同じなら、肩を失った汝が不利なのは判ろう」戦慄を感じつつ笑みを浮かべながら、ネンテは自分の声が、自分ならざる口調で喋るのを聞いていた。目の前に立っているのは自分の姿だった。だが紛れもなく「彼」だった。肉体を己が目に映った姿へと変える。それが「エピタフ(墓碑銘)」。
ネヴァモアはこれ以上の戦闘に自信が無かった。他人の肉体を借りるとは、さながら慣れぬ荒馬に乗るが如し。所詮は仮初に過ぎず、奇異を衒った技に過ぎない。まして今の体は痛みを感じない特殊体質。それがどのような精神状況をもたらすのか想像もつかない。(これ以上向かってきたらどうする……?。「フラクチャー」あるいは「スターレス」。 だが、この体でどこまで使えるか)。同じ姿の、全く異なる二人の男が、神殿の中で静かに睨み合っていた。
その時はっきりと少年が感じたのは、傷ついた脇腹をさらに抉る衝撃と―――左手に伝わった肉を貫く手応えだった。 そして、視界に広がる赤い鮮血。 その身を濡らす赤い液体だけが、自分の意識をここに繋ぎ止めていた。 そう、それはお互いが最後の一撃を覚悟して技を放った、次の瞬間の出来事だった。 あの時――― そう、最後の一撃を決意した、あの時。 彼が、彼の切り札でもって挑んできた、最後の一瞬。 これは、その時のこと。
あの時、U−ブレインから彼の神速行動の予兆を伝えられていたゼフィリシアは、自分も最後の技を繰り出す決意を固めていた。≪身体能力制御、運動速度、知覚速度を6倍に設定≫ ―――6倍。 これが自分の出来る限界だった。 だが、これではダメだと知ったゼフィリシアは登録された最後の技を使用した。 四聖霊獣剣、秘奥【熾天】 四聖霊獣剣、それはイメージを精神力により具現化する魔術に近い剣術だ。 その中でも熾天は、ゼフィリシアが自ら編み出した攻防一体の光の技である。
最初の一歩は同時だった。 次の瞬間に、ゼフィリシアは【熾天】を発動し、その身に熾色の光を纏い真直ぐに突き進んだ。 纏った熾色の光が軌跡を描き、それが翼のように広がった。 だが、それは一瞬のこと。 誰も―――そう、当人たちですら気づかないぐらい、一瞬のことだった。 勝負は紙一重だった。 彼の神速の一撃は正確に傷口を狙っており、もしもゼフィリシアの着ている服が体の線のわかるものだったら、おそらく倒れていたのはゼフィリシアだっただろう。 もし、熾天による防御力があと僅かに弱くても、倒れていたのはゼフィリシアだっただろう。 先に攻撃を当てたのは、間違いなく彼だったのだから。
この結果は、本当に紙一重の結果だったのだ。 とにかく、彼の神速の一突きはゼフィリシアの傷口を抉り、その後で突き出したゼフィリシアの剣は、彼の腹部を貫いていた。 そう、そうなっていた。 何故なら、ゼフィリシアは狙っていたのではなく、ただ真直ぐに剣を突き出しただけだったから。 そう、とても狙うことなど出来なかったから。 そのことを、結果と共に知ったのだ。 それが、あの一瞬の出来事だった。
傍らに倒れた彼を見て、ゼフィリシアは安堵と共に喜びを感じていた。 それは、勝利にではなく、ただこの戦いに。 彼と戦うことの出来たと言う、それだけのことに。 そのことに心から嬉しさを感じていた。 動く気配のない彼の隣に倒れるように座り込み、少年は天井を見上げる。 いつの間にか空からは闇が薄れ、東の空から茜色の光が差し込んでいた。 二人の戦いは今本当に終焉を迎えたのだ。 朝日が、まるで傷ついた二人を祝福するかのように、その戦場だった神殿を照らしていた。
目の前に自分がいる。誰よりも良く知った顔でありながら、その実自分でも浮かべたことのないような表情をして。目の前に彼がいる。今宵の対戦相手、私の左腕を奪った人物、そして最も敬愛する相手、が私の姿をして。松明が彼の姿を照らす。松明が自分の姿を照らす。ネンテはネヴァモアの動きがにぶくなっているのが「わかった」ネヴァモアはネンテの動きがにぶくなっているのが「わかった」お互いもう長くないことが「わかった」両者自分が次に何をするべきかが良くわかった。相手が何を考え、何を意図しているかがよくわかった。同じ姿をした二人が、期せずして同時に笑みを浮かべた。
この長い長い闘いに終わりを告げようこの奇妙な奇妙な闘いに終わりを告げよう何と嬉しい逢瀬であったか何と苦しい逢瀬であったか今宵帰るはただ一人今宵帰らぬはただ一人「さて、ネヴァモアさん」「何だね」「そろそろ幕引きに致しましょうか」「言われる迄もない。 さあ、来るがいい」「では」
ネンテがネヴァモアに向かって突進していく。腕が片方無いとやはりバランスが崩れるものだな、と考えながら。相手は自分の姿を真似てはいるが、果たしてどこまで真似できているものか。最後の手段として懐に隠し持っていたナイフを取り出す。完全な投擲目的で作られたそれは音もなくネヴァモアの脇腹に突き刺さった。と、少し間を空いてからネヴァモアは脇腹に目をやった。普通なら激痛で即座に何らかの反応が出るはずである。これの意味するところは一つ。「そこまで真似されては敵いませんね」
脇腹に違和感を感じて目をやると、そこにはナイフが刺さっていた。ネヴァモアが無言でナイフを引き抜く。脇腹を傷つけたそれは完全な流線型をしており、音もなく獲物を仕留めるのには調度良いと思われるものであった。しかし、それならば何故、首或いは心臓を一突きにしなかったのだ。幾ら大量に血を失っているからといって、彼が目測を誤ることはないと思うが―――「太陽と戦慄」は遠く腕を離れて地面に転がっている。ネンテの日本刀と一緒に。「頼るべきはこれか」ナイフを片手に身構える。と、眼前に明らかに異質なモノが飛んできた。腕である。
調度良いところに腕が落ちていた。見覚えがあるが、一体誰の?あぁ、そうか。私のだ。私のならば、私がどうしようとそれこそ私の勝手だ。腕は意外と重かった。投げつけるとクルクルと飛んでいった。面白かった。ネンテは己の腕をネヴァモアに向かって投げつけていた。明らかに異質、常軌を逸した光景に流石にネヴァモアも一瞬対応が遅れた。見知った顔がある。見知った首がある。ネンテはネヴァモアの懐に飛び込み、そのまま押し倒すと喉笛に喰らいついた。
二つの同じ体が重なっていた。上の男は下の男の首筋に顔を埋めている。下の男は上の男の背中を抱きしめている。否。ネンテはネヴァモアの喉笛を噛み千切ろうとし、ネヴァモアはネンテの背中をナイフでメッタ刺しにしていた。両者の顔面が。腕が。胸が血に染まる。像に。柱に。地面に血が飛び散る。神聖にして穢されざるべき神殿にはおよそ似つかわしくない光景ではあるが。両者の間には何とも言えぬ祝福があった。ネヴァモアの姿が、時折彼本人のものに戻るときがあり、それがネンテにはたまらなく嬉しかった。そして暫くすると二人の姿は血の中に文字通り溶け込んでいた。
「なんという迫力!!圧倒的な存在感……!!!あれがさっきまで俺と同じ満身創痍だったクリフの力か!?」吹き飛ばされそうなその咆哮に耐え、攻撃に出る!!「我が拳!唸り爆せよ!!必殺奥義!光輝指技!!!」己が拳を力を集中する。しかし、クリフは、その時を待たなかった。さっきまでと違う重いパンチ、素早い蹴り、鋭い連続技・・・全ての攻撃がマイロンを襲う。
繰り出される攻撃・・・その攻撃の1つ1つがマイロンを死に近づけさせるに十分だ。しかし、獣と化したクリフは攻撃を止めない。「まだコイツには戦う意思がある。闘気を感じる。」トドメを刺そうとクリフが渾身の一撃を放とうとする。「今だぁぁぁ!!」マイロンの右手が輝き出し、再び拳が開く、その5つの指で敵を射抜かんと。ズシャアアァァ・・・二人の動きが完全に止まった。もうこれ以上動き気配はない。否!もう動けないのだ!お互いの拳が、相手の胸に突き刺さっていた。
「チッ・・・浅かった・・・か。」東の方より照らし始めるの太陽が二人の漢を照らす。次第に片方の漢がゆっくりと崩れ去る。獣から元の姿に戻ったクリフは、倒れた方、マイロンを見る。最後の拳、お互いが攻撃に全集中したにも関わらず、クリフがとっさに急所を避けたのは獣としての本能だったかもしれない。しかし、すでにマイロンはそれを確かめる意味がない。負けたのだから。一人たたずむクリフの瞳は、何かを言いたいようでもあった・・・。
「……何かが、違うんですよね……」振り返る事無く、彼女はそう言うと刀を『完全に』納めた。明らかな「試合放棄」の意思表示。…そう、これは試合だから。背中合わせのまま、声だけが響く。「私の負け、という事で。これ以上は左腕も動きませんし」ここに来て初めて、神殿内の様相を見渡す余裕が出来た。「何より…あなたは一切本気ではありませんから、ね……」この場でそれを出させる事は、至難のように思えた。それは実力の差であり、互いの立場の差のようでもあり……とにかく、これ以上続けても無駄に時を費やすだけと判断した。
想いを刀に込められたのだろうか。相手に対し、それをしっかりと伝えられたのだろうか。自問自答し、自然と苦笑いを浮かべる。力不足であった事を改めて実感した。私もまだまだだな、と。左腕の痛み以上に、心の痛みがじわじわと涌いてくるようで……こんな終わり方があっても、これはこれで一つの決着の形―――そう自分に言い聞かせ、歩き始める。そして数十歩進んだ所で、伝え忘れた言葉に気付き足を止める。「修行し直して参りますね。お手数をお掛けしましたっ!」振り返った先…彼女の目に何が写っていたかは、定かではない……
ほんの僅か、勝負を分けたのはマイロンが強化された防御力を想定するのを忘れた故。後1cm、いや1mm違えば地に伏したのは俺だったかもしれない。全身が激痛に苛まれる、【魔獣召喚憑依】肉体の限界を超えたスピード、パワーを得られるが限界を超える故に代償も大きい。気絶し倒れたマイロンを抱える、思うように動かぬ体を引きずりながら会場の外にいるであろう執行委員の元へ。勝負はついたのだから。「最高の勝負だったぜ、またいつかやろう」歩きながら語りかける、聞こえているかどうかもわからぬままに。